演題:ヒトインプリントームの解明と疾患遺伝子研究への応用
講師:中林 一彦 先生 成育医療研究センター研究所 周産期病態研究部 周産期ゲノミクス研究室 室長
日時:2012年12月3日(月)17:00~18:00
場所:生体調節研究所1階会議室
講演要旨
エピジェネティックスの代表例として知られるゲノムインプリンティング機構の破綻が胎児・胎盤の発育異常の原因となることが稀少インプリンティング異常症の研究から明らかにされているが、近年、インプリント遺伝子がcommon diseaseにも関与することを示す知見が蓄積されつつある。例えば、KCNQ1, H19, KLF14の3つのインプリント遺伝子座位に同定されたII型糖尿病感受性SNPにおけるparent-of-origin効果(感受性アレルが父親・母親の特定の一方から伝達された場合にのみ疾患との関連がみられる現象)が複数の大規模ゲノムワイド関連解析により報告されている。
次世代シーケンサー技術の活用によりモデル動物(マウス)におけるインプリント遺伝子群の全容(インプリントーム)解明が進んでいるのと比べると、組織入手の困難さもあり、ヒトインプリントームの解明は遅れている。我々はヒト全染色体母性片親性ダイソミー症例と全染色体父性片親性ダイソミー症例の末梢血由来ゲノムDNAにおいてDNAメチル化状態が異なるゲノム領域を解析することで、効率的に新規インプリント遺伝子が同定できることを明らかにした。これまでに同定した6箇所の新規インプリント遺伝子座位はいずれもマウスではインプリント制御を受けておらず、進化過程で霊長類系譜特異的にインプリント制御機構が獲得された可能性が高い。ヒトを含む霊長類のインプリントーム解析は、稀少インプリンティング疾患に限らず様々な疾患の遺伝要因解明に有用であり、ゲノム進化における新規インプリンティング座位獲得の機構を理解する点においても重要であると考えられる。